「広島市で賃貸経営を始めたいけれど、人口が減るなかで本当に収益が続くのか」という不安をよく耳にします。地方都市の不動産投資に慎重になるのは、むしろ健全な姿勢といえるでしょう。
ただ、広島市は「人口減・世帯増」という独特の構造を持っており、賃貸需要を一括りに語ることはできません。実際に区ごとの需要や空き家率には大きな差があります。本記事では、公的な統計データをもとに、エリア選定から融資、税務、運営管理までを実務目線で整理します。具体的な物件調査に踏み出すための判断材料として、ぜひ最後までお読みください。
広島市の賃貸市場を「区別」で正しく理解する
広島市で賃貸経営を成功させる第一歩は、市全体の平均値ではなく区ごとの実態を把握することです。同じ市内でも、需要が伸びる区と縮む区が明確に分かれているからです。「広島市だから安心」という大雑把な判断は、投資失敗の入り口になりかねません。
人口は減っても世帯は増えている
広島市によると、令和7年国勢調査(2025年実施)の速報では、広島市の人口は1,172,423人で、令和2年と比べて28,331人(2.4%)減少しました。一方で世帯数は562,105世帯となり、6,982世帯(1.3%)増えています。人口が減っているのに世帯が増えているのは、単身世帯や共働き世帯の細分化が進んでいることを示しています。
この世帯増がとくに強いのは、中区(85,425世帯、4.7%増)、安佐南区(109,193世帯、2.7%増)、佐伯区(60,495世帯、2.8%増)です。賃貸経営は最終的に「世帯」が借り手になるため、世帯が増えている区を優先候補に据える発想が重要になります。逆に安佐北区は人口が6.2%減、安芸区も6.1%減と落ち込みが大きく、長期保有を前提にするなら需要の弱さを織り込む必要があります。
借家割合と空き家率から需要の厚みを読む
令和5年の住宅・土地統計調査では、広島市全体の借家割合は42.7%でした。区別に見ると中区が61.9%と突出して高く、西区49.6%、南区47.1%、安佐南区42.8%と続きます。都心から準都心にかけて賃貸需要が厚いことが、数字からはっきり読み取れます。
供給面では、広島市の空き家率は11.7%で、広島県の15.8%や全国の13.8%より低い水準にとどまっています。市全体として供給過多一辺倒ではない点は、投資先としての安心材料です。ただし区差は大きく、中区14.6%、東区14.5%、安佐北区14.2%に対し、安佐南区は7.4%と最も低くなっています。さらに、市内の空き家のうち63.0%にあたる46,400戸が「賃貸用の共同住宅等」です。つまりアパート・マンション経営では、空き家との競争を前提に設備や賃料を詰める必要があるということです。
家賃相場の区別格差と将来人口
単身向け物件の家賃相場にも区別の差が表れています。民間の賃貸情報サイトのデータでは、ワンルーム・1K・1DKの相場は都心部と郊外で1万円以上の開きがあります。なお、相場は駅徒歩10分以内かつ駐車場代などを除いた数値のため、駐車場需要のある立地では実質賃料を別途確認することが欠かせません。
長期目線では将来人口の見通しも重要です。広島市の実施計画によると、社人研推計準拠で人口は2025年の118.3万人から2045年に108.0万人、2060年には96.8万人へと減っていく見込みです。さらに同市は、15〜39歳という進学・就職・結婚を迎える層の転出超過が多いと明記しています。若年単身者を狙うなら、大学や就業地、駅近への立地の寄せ方が成否を分けます。
失敗しない物件選びの基準
物件選びで大切なのは、利回りの数字より先に「誰に貸すか」を描くことです。入居者像を固めれば、適したエリアと物件タイプがおのずと見えてきます。
ターゲット別の考え方
若年単身者を狙うなら、借家割合が高く世帯も増えている中区や、就業地・大学へのアクセスが良い駅近を軸に検討するのが合理的です。家賃相場が6万円台で需要も厚いため、空室期間を短く保てれば安定した収益が見込めます。一方、安佐南区は空き家率が7.4%と低く、ファミリー世帯の実需が底堅いエリアです。家賃相場は5万円前後と控えめですが、競合が少なく長期入居を期待しやすい点が魅力です。
反対に、郊外の築古高利回り物件には注意が必要です。表面利回りが高く見えても、人口減が大きい区では将来の入居付けと売却の双方が難しくなります。空き家の6割超が賃貸用共同住宅という現実を踏まえれば、需要の厚い区で堅実な物件を選ぶほうが、トータルの収益性は高くなりやすいといえます。
仕入れ単価は同一区内でも大きく違う
地価の差を見落とすと高値づかみにつながります。国土交通省の地価公示では、南区の標準地でも広島南-1が260,000円/㎡、広島南-7が232,000円/㎡である一方、広島南-5は97,100円/㎡と、同じ区内で倍以上の差があります。安佐南区でも安佐南-21が177,000円/㎡なのに対し、安佐南-28は57,700円/㎡で、しかも下落しています。家賃相場だけを見て物件価格の妥当性を判断するのではなく、標準地の単価まで確認することが大切です。
災害リスクの確認を怠らない
広島市は過去に大きな水害・土砂災害を経験しており、取得前のハザード確認は欠かせません。市が公開する洪水ハザードマップは、河川管理者が指定した河川を対象としており、すべての河川を網羅したものではありません。「マップの対象外だから安全」と早合点しないことが重要です。
あわせて確認したいのが土砂災害です。広島市では、土砂災害防止法に基づき広島県が指定する土砂災害警戒区域(イエローゾーン)と土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)があります。山際や丘陵地の物件を検討する際は、必ず指定状況を調べてください。これらの区域は金融機関の評価や保険料にも影響します。最新情報は広島市・広島県の公式サイトでご確認ください。
資金計画と融資戦略のポイント
融資条件はキャッシュフローを左右する重要な要素です。とくに「何年で借りられるか」は構造と築年で明確に制約されるため、事前の理解が欠かせません。
地元銀行の融資年数は構造で決まる
地元の広島銀行のビル・アパートローンは、賃貸不動産の新築・増改築・中古購入・借換に利用できます。融資期間は構造ごとに上限が定められており、RC造・SRC造は35年、S造は30年、木造は20年です。木造の築古物件は融資年数が短くなりやすく、月々の返済負担が重くなる点に注意してください。また同行は審査条件として「家賃水準は近隣類似物件と比較し妥当なものであること」を明記しています。収支表に楽観的な家賃を置くのではなく、近隣の成約賃料をもとに組み立てる姿勢が求められます。
地銀の年数や評価が合わない築古・地方案件では、ノンバンク系の選択肢もあります。専門サイトの整理によると、あるアセットファイナンスでは融資額に応じて金利が変わり、最大30年・LTV70%で、共同担保ならフルローンも可能とされています。評価は「積算と収益還元の低い方」で行い、築30〜40年や再建不可といった案件にも対応するとされます。金利は地銀より高くなる傾向があるため、金利と年数のバランスを見極めることが大切です。なお融資条件は申込時期や個別事情で変わるため、必ず各金融機関へ直接ご確認ください。
保守的なシミュレーションを徹底する
金利環境が変化しうるなかでは、楽観的な前提で計画を組むのは危険です。家賃は近隣成約ベースで保守的に置き、金利が上昇しても返済が続けられる水準かどうかを事前に検証してください。借入年数が短い木造物件ほど、空室や金利の変動に対する余裕が小さくなる点も忘れてはいけません。
収益を守る運営管理と契約上の注意点
購入後の運営管理は、長期収益を左右する最後の決め手です。委託先選びと契約形態の理解が、トラブル回避と空室対策の両面で効いてきます。
管理会社は「登録の有無」から確認する
管理を委託する場合、まず確認したいのが法令上の体制です。国土交通省によると、管理戸数200戸以上の賃貸住宅管理業者は国土交通大臣への登録が義務づけられており、営業所ごとに業務管理者を1名以上配置する必要があります。委託前に、登録の有無や重要事項の説明体制を確認しておくと安心です。手数料の安さだけでなく、退去から再募集までの対応スピードや説明の丁寧さも含めて、総合的に判断しましょう。
サブリースは「家賃保証」の文言を鵜呑みにしない
初心者がとくに注意すべきがサブリース契約です。国土交通省は、家賃の見直しや契約解除の条件などの説明が不十分なまま契約され、内容を誤認したことによるトラブルが多発していると注意を促しています。さらに、「家賃保証」「空室保証」といった広告でも、定期的な家賃見直しがあることや、借地借家法第32条により家賃が減額されうることが明示されていない場合は、誇大広告に該当する可能性があるとされています。保証の文言だけで判断せず、減額や解約の条件を契約書で必ず確認してください。
設備投資は競合との差別化を意識する
市内の空き家の6割超が賃貸用共同住宅である以上、選ばれる物件にするための設備投資は欠かせません。高速インターネットや独立洗面台、宅配ボックスなど、入居者ニーズの高い設備は空室期間の短縮や家賃維持につながります。費用対効果を見ながら、競合に差をつける小さな改善を積み重ねることが、長期的な収益安定の近道です。
税務の基本と取得・保有コストを押さえる
賃貸経営の手取りは、表面利回りではなく税引き後の収支で決まります。取得時・保有時・申告時のそれぞれで、コストと制度を正しく理解しておきましょう。
不動産所得の計算と青色申告
国税庁によると、不動産所得は「総収入金額 − 必要経費」で計算します。総収入には賃料のほか礼金や更新料、共益費なども含まれる一方、減価償却費などは必要経費にできます。さらに、不動産所得がある人は白色申告者も含めて記帳・帳簿保存の対象です。正規の簿記の原則により記帳していれば、一定の要件のもとで青色申告特別控除として最高65万円または55万円が受けられます。だからこそ、最初から会計体制を整えておく価値が高いのです。
取得税と保有税を見落とさない
取得時には不動産取得税がかかります。広島県では、不動産を取得した日から60日以内に、不動産取得申告書を所在地を管轄する県税事務所へ提出する必要があります。取得時の現金支出として、資金計画にあらかじめ織り込んでおきましょう。
保有時には固定資産税・都市計画税がかかりますが、広島市では1月1日時点で住宅の敷地となっている住宅用地に課税標準の特例措置が適用されます。建替えや更地のタイミングによって特例の適用が変わるため、保有税の試算ではその点まで見込まないと精度が落ちます。具体的な税額や適用要件は個別事情によって異なるため、最新情報は広島市・広島県・国税庁の公式サイトでご確認ください。
まとめ:広島市での賃貸経営を成功させるために
広島市での賃貸経営は、市全体の平均ではなく区別のデータで判断することが出発点です。人口は減っても世帯は増えており、借家割合の高い中区や空き家率の低い安佐南区など、需要の厚いエリアを見極めることが成功の鍵を握ります。
そのうえで、構造による融資年数の制約を理解し、近隣成約賃料をもとにした保守的な資金計画を立ててください。管理会社の登録確認やサブリースの条件チェックといったリスク管理、そして取得税・保有税まで含めた税引き後収支の把握も欠かせません。
公的な統計とハザード情報を丁寧に読み解き、地価の単価差まで確認しながら判断すれば、空き家率が全国平均より低い広島市の強みを活かせます。本記事を手がかりに、まずは関心のある区の需要データと物件調査へと踏み出してみてください。
参考文献・出典
本記事は、広島市「令和7年国勢調査結果(人口速報集計結果)」「令和5年住宅・土地統計調査結果(概要)」「広島市実施計画(2025-2030)」「洪水ハザードマップ」「土砂災害に備えるために」「住宅用地に対する課税標準の特例措置」、広島県「不動産取得税」、国土交通省「賃貸住宅管理業法ポータルサイト」および地価公示資料、国税庁「不動産所得」「記帳や帳簿等保存・青色申告」などの公的資料を参照しました。家賃相場や融資条件の一部は民間の公開情報を参考にしています。最新の制度・数値は各公的機関の公式サイトで必ずご確認ください。