不動産の税金

相続不動産の売買契約書と特約の基本を解説

親や祖父母から不動産を相続したとき、「この家をどうやって売ればいいのだろう」と戸惑う方は少なくありません。相続した不動産の売却は、通常の不動産売買と比べて手続きが複雑で、売買契約書に盛り込む特約の内容も慎重に検討する必要があります。この記事では、相続不動産を売却する際に知っておきたい登記の基礎知識から、売買契約書の特約で注意すべきポイント、さらに税金の優遇制度まで、初心者にもわかりやすく解説します。相続不動産の売却を検討している方は、ぜひ最後までお読みください。

相続登記を済ませないと売却できない理由

相続登記を済ませないと売却できない理由のイメージ

まず押さえておきたいのは、相続した不動産を売却するには、必ず事前に相続登記を完了させなければならないという点です。登記が済んでいない状態では、法律上の所有者が明確でないため、買主への所有権移転ができません。

法務省の情報によると、相続人申告登記という簡易な手続きも存在しますが、これはあくまで「相続人であることを申告する」ための登記です。不動産の権利関係を公示するものではないため、相続した不動産を売却したり、抵当権を設定したりする場合には、別途、正式な相続登記の申請が必要とされています(法務省 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00602.html)。

また、相続登記には期限が設けられています。法務省の案内では、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが法律上の義務とされており、正当な理由なく怠った場合は10万円以下の過料が科される可能性があります(法務省 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html)。さらに、遺産分割が成立した場合には、その成立日から3年以内に遺産分割の内容に基づく登記を申請することも義務付けられています。

相続登記に必要な書類は多岐にわたります。法務局のチェックシートによると、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本・除籍謄本、住民票の除票または戸籍の附票、相続人の住民票、固定資産評価証明書、登記申請書、そして遺産分割協議書(相続人全員の印鑑証明書を含む)などが基本的な必要書類となります(法務局 https://houmukyoku.moj.go.jp/otsu/content/001422668.pdf)。なお、オンライン申請を利用しても、戸籍謄本などは現時点では電子文書での発行が対応していないため、完全にオンラインだけで手続きを完結させることはできません(法務局 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/fudosan_online03.html)。

売買契約書の特約で必ず確認すべき「契約不適合責任」

売買契約書の特約で必ず確認すべき「契約不適合責任」のイメージ

相続不動産の売買契約書において、特に重要な役割を果たすのが契約不適合責任に関する特約です。契約不適合責任とは、売却した物件が契約の内容に適合しない場合に売主が負う責任のことで、買主は修補・代金減額・損害賠償・解除を請求できます。

東京都の資料によると、買主がこれらの請求をするためには、不適合を知ってから1年以内に売主へその旨を通知する必要があります(東京都 https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/juutaku_seisaku/pdf/ansingaido_6.pdf)。相続不動産の場合、売主である相続人が建物の詳細な状態を把握していないケースも多く、この責任をどう扱うかが契約書の核心になります。

特約による責任の制限については、売主と買主の立場によってルールが異なります。東京都の整理によると、売主・買主ともに宅建業者でない個人間の売買であれば、契約不適合責任を免責する特約や、付帯設備を対象外にするような制限特約は有効と扱われます(東京都 https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/juutakuseisaku/6_keiyakuhutekigousekinin-kasitanposekinin-pdf-pdf)。一方、売主が宅建業者で買主が宅建業者でない場合は、免責特約も対象範囲を制限する特約も認められません。

相続不動産の個人間売買では、責任を負う対象を雨漏り・シロアリの害・建物構造上主要な部位の木部腐食・給排水管の故障の4項目に限定するような特約が有効と扱われた裁判例の解説もあります(全日本不動産協会 https://magazine.zennichi.or.jp/law/18454)。ただし、どのような特約を設けたとしても、売主が知りながら買主に告げなかった事実については責任を免れることができません(民法572条)。これは相続不動産の売却でも同様に適用される重要な原則です。

遺産分割前に売却する場合の注意点

相続人が複数いる場合、遺産分割が完了する前に売却を進めようとするケースがあります。この場合、登記実務上は「相続分の売買」として扱われ、通常の不動産売買とは異なる手続きが必要になります。

国税庁の照会事例によると、共同相続人の一人が遺産分割前に自己の相続分を第三者に譲渡・売買したときは、その相続人を登記義務者、第三者を登記権利者として、「相続分の売買」を登記原因とする持分全部移転の登記をすることになります(国税庁 https://www.nta.go.jp/law/bunshokaito/sonota/100331/02.htm)。また、相続分の譲渡を受けた者が共同相続人以外の第三者である場合は、いったん共同相続の登記を経た後でなければ、持分全部移転の登記ができないとされています。

さらに注意が必要なのは税金面です。同じ国税庁の照会事例では、相続分の売買は土地そのものの売買ではないと整理されており、土地売買向けの登録免許税の軽減措置は適用されないとされています。遺産分割前の売却は手続きが複雑になるうえ、税負担の面でも不利になる可能性があるため、できる限り遺産分割を完了させてから売却手続きを進めることが望ましいといえます。

相続不動産の売却で使える税金の特例

相続した不動産を売却する際には、税負担を軽減できる特例制度が存在します。これらを正しく理解して活用することが、手取り額を大きく左右します。

ひとつ目は「取得費加算の特例」です。国税庁の情報によると、相続や遺贈で財産を取得した人が相続税を課税されており、その財産を相続開始日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算して譲渡所得を計算できます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm)。この特例を受けるには、確定申告書に「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」や「譲渡所得の内訳書」を添付して申告する必要があります。

ふたつ目は「空き家の3,000万円特別控除」です。国税庁によると、相続または遺贈で取得した被相続人の居住用家屋や敷地を一定の要件のもとで売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm)。ただし、令和6年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上の場合は控除上限が2,000万円となります。主な要件としては、相続時から譲渡時まで事業・貸付け・居住に供していないこと、相続開始から3年を経過する年の12月31日までに売ること、売却代金が1億円以下であることなどが挙げられます。なお、この空き家特例と取得費加算の特例は同時に使うことができないため、どちらが有利かを事前にシミュレーションすることが大切です。

申告の際には「被相続人居住用家屋等確認書」や売買契約書の写しなど、売却代金が1億円以下であることを明らかにする書類の提出も求められます。税務上の疑問点は、国税局の電話相談センターに問い合わせることができます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sodan/denwa-sodan/index.htm)。

まとめ

相続不動産の売却は、登記・契約・税金のすべてにおいて通常の不動産売買より複雑です。まず相続登記を期限内に完了させることが大前提であり、売買契約書の特約では契約不適合責任の範囲を明確に定めることが売主・買主双方のトラブル防止につながります。また、取得費加算の特例や空き家の3,000万円特別控除など、活用できる税制優遇を事前に確認しておくことで、手取り額を大きく改善できる可能性があります。手続きに不安がある場合は、法務局の登記手続案内(予約制・電話・窓口・ウェブ会議で利用可能)や国税局の電話相談センターを積極的に活用しながら、専門家のサポートも検討してみてください。

参考文献・出典

  • 法務省:相続人申告登記について — https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00602.html
  • 法務省:相続登記の申請義務化について — https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
  • 法務局:不動産の所有者が亡くなった(相続の登記をオンライン申請したい方) — https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/fudosan_online03.html
  • 法務局:相続登記チェックシート(遺産分割協議を行う場合) — https://houmukyoku.moj.go.jp/otsu/content/001422668.pdf
  • 法務局:登記手続案内 — https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page_000001_00050.html
  • 国税庁:「相続分の売買」を登記原因とする土地の所有権の移転の登記に係る登録免許税の租税特別措置法第72条の適用の可否について(照会) — https://www.nta.go.jp/law/bunshokaito/sonota/100331/02.htm
  • 国税庁:No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
  • 国税庁:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
  • 国税庁:国税に関するご相談について — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sodan/denwa-sodan/index.htm
  • 東京都:不動産取引における契約不適合責任・瑕疵担保責任について — https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/juutakuseisaku/6_keiyakuhutekigousekinin-kasitanposekinin-pdf-pdf
  • 東京都:不動産取引の安心ガイド — https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/juutaku_seisaku/pdf/ansingaido_6.pdf
  • 国土交通省:改正宅地建物取引業法の施行に向けて — https://www.mlit.go.jp/common/001157815.pdf
  • 公益社団法人 全日本不動産協会:Vol.103 担保責任を制限する特約 — https://magazine.zennichi.or.jp/law/18454

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