この記事の結論
- 家具設置による畳のへこみは「通常の住まい方」の範囲とされ、原則として借主が費用を負担する必要はありません。
- 飲み物をこぼした跡や手入れ不足によるシミ・カビなど、借主の不注意が原因の損傷は借主負担になりやすいです。
- 借主負担になった場合の対象は原則「毀損のあった枚数単位」で、畳表は経過年数を考慮しない点に注意が必要です。
退去時に「畳がへこんでいるから修理費を払ってください」と言われて、戸惑った経験はありませんか。畳のへこみは日常生活でごく自然に生じるものですが、費用負担をめぐるトラブルは後を絶ちません。国民生活センターには2026年2月時点でも、退去時の原状回復費用に関する相談が多数寄せられています。この記事では、国土交通省や東京都の公的ガイドラインをもとに、畳のへこみが「貸主負担」になるケースと「借主負担」になるケースを整理し、万が一高額請求された場合の対処法まで分かりやすく解説します。
原状回復の基本的な考え方

まず押さえておきたいのは、「原状回復」の正しい意味です。多くの方が「退去時には入居前の新品状態に戻さなければならない」と思い込んでいますが、これは誤解です。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(https://www.mlit.go.jp/common/001016469.pdf)によると、原状回復とは入居時の状態に戻すことではなく、借主の故意・過失や通常でない使い方による損傷を復旧することを指します。
また、民法上も借主は通常損耗(賃借物の通常の使用収益によって生じた損耗)や経年変化についてまで原状回復の義務を負わないことが明確にされています(東京都住宅政策本部 https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/fudosan/tintai/310-27)。つまり、普通に生活していれば避けられない劣化については、貸主が費用を負担するのが原則です。
この考え方を理解しておくだけで、退去時の交渉がぐっとスムーズになります。「何でも借主が直さなければならない」という思い込みを手放すことが、トラブルを防ぐ第一歩です。
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家具によるへこみは貸主負担が原則

では、畳のへこみについて具体的に見ていきましょう。国土交通省の「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)」(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001493363.pdf)では、「日照による畳の変色、家具設置によるへこみは通常の住まい方の範囲と考えられます」と明記されています。つまり、ソファやタンスなどの家具を置いたことで生じた畳のへこみは、原則として借主が支払う必要はないとされています。
東京都の「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」(https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/fudosan/tintai/310-3)でも同様の整理がされており、「家具の設置によるカーペットのへこみ」「日照等による畳やクロスの変色」は貸主が費用を負担するのが原則と明示されています。さらに、破損していない畳の裏返しや表替えも、次の入居者確保のための費用として貸主負担に整理されています(国土交通省ガイドライン)。
このように、公的なガイドラインは一貫して「家具によるへこみ=通常損耗=貸主負担」という立場をとっています。退去時にこの種のへこみを理由に請求を受けた場合は、これらのガイドラインを根拠に異議を申し立てることができます。
借主が費用を負担するケースとは
一方で、借主の不注意や手入れ不足が原因の損傷は、借主負担になりやすい点を覚えておく必要があります。国土交通省の相談対応事例集では、「飲み物をこぼした跡がある、不注意により雨が吹き込んだことによる変色などは借主の不注意に該当することが多い」と説明されています。
東京都のガイドラインでは、借主負担の具体例として「タバコによる畳の焼け焦げ」「引越し作業で生じた引っかきキズ」「借主が結露を放置したために拡大したシミやカビ」が挙げられています。これらに共通するのは、借主が適切に対処していれば防げた損傷という点です。つまり、へこみであっても、通常の家具設置ではなく重い物を落としたり、無理な力をかけたりして生じた破損であれば、借主負担と判断される可能性があります。
判断の分かれ目は「通常の生活の範囲内かどうか」です。日常的に家具を置いて生活することは誰もが行う行為ですが、不注意や放置によって損傷を拡大させた場合は話が変わります。自分の状況がどちらに当たるかを冷静に確認することが大切です。
借主負担になった場合の修理費用の考え方
仮に借主負担と判断された場合、費用はどのように計算されるのでしょうか。国土交通省のガイドラインでは、借主負担の対象は原則として「毀損のあった枚数単位」とされており、部屋全体の畳を交換する費用を全額請求されるのは原則として認められません。
また、畳の費用計算には独特のルールがあります。畳表(表面のゴザ部分)については消耗品に近いものとして扱われ、経過年数は考慮しないとされています。一方、畳床(芯の部分)については6年で残存価値1円となる考え方が示されています(国土交通省ガイドライン)。東京都のガイドラインでも「畳は原則1枚単位。ただし、経過年数は考慮しません」と整理されています。
費用の目安については、民間の情報(エイブル https://homeowner.able.co.jp/article/restoration-cost/)によると、畳の傷・へこみの補修で8千円〜6万円、畳の交換費用で1枚あたり4千円〜3万5千円というレンジが示されています。また別の民間情報(CHINTAI https://www.chintai.net/news/18560/)では6畳でおよそ4万5千円〜という目安も示されています。ただしこれらは民間の参考値であり、実際の費用は物件の状況や業者によって異なります。
高額請求されたときの対処法
退去後に納得できない高額請求を受けた場合、まず落ち着いて対応することが重要です。国土交通省のQ&A(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000024.html)によると、貸主には敷金から差し引く原状回復費用について説明義務があり、借主は貸主に対して明細を請求して説明を求めることができます。請求書を受け取ったら、まず費用の内訳と根拠を書面で求めましょう。
特約の扱いにも注意が必要です。契約書に「修理費は借主負担」と書いてあっても、それだけで通常損耗まで借主負担になるとは限りません。東京都のガイドラインでは、借主に特別の負担を課す特約が有効と認められるためには、「特約の必要性と合理的理由があること」「借主が通常の義務を超えた負担を認識していること」「借主の意思表示があること」という3つの要件が必要とされています。実際に、裁判例では日焼け程度の畳張替費の請求が認められなかった事例もあります。
国民生活センターには、10年居住後にクロスの全面張替えと畳の表替え費用全額として約20万円を請求されたという相談事例が2026年2月時点で報告されています(https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20260217_1.html)。このような場合は、消費生活センターや弁護士への相談も選択肢のひとつです。請求内容に疑問があれば、安易にサインせず専門家に相談することが大切です。
まとめ
賃貸の畳のへこみをめぐる費用負担は、「通常の住まい方の範囲かどうか」が判断の核心です。家具を置いたことによるへこみや日照による変色は、公的ガイドラインで貸主負担と整理されており、原則として借主が費用を負担する必要はありません。一方、飲み物をこぼした跡や手入れ不足によるシミ・カビなど、借主の不注意が原因の損傷は借主負担になりやすいため、日頃から丁寧に使うことが大切です。
退去時に高額請求を受けた場合は、まず費用の明細説明を求め、国土交通省や東京都のガイドラインを参照しながら冷静に対応しましょう。納得できない場合は消費生活センターや専門家への相談をためらわないでください。正しい知識を持つことが、不当な請求から自分を守る最大の武器になります。
参考文献・出典
- 国土交通省 – 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版) https://www.mlit.go.jp/common/001016469.pdf
- 国土交通省 – 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」Q&A https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000024.html
- 国土交通省 – 民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版) https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001493363.pdf
- 東京都住宅政策本部 – 賃貸住宅トラブル防止ガイドライン https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/fudosan/tintai/310-3
- 東京都住宅政策本部 – 民法改正(令和2年4月1日から賃貸借契約等に関する民法のルールが変わりました) https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/fudosan/tintai/310-27
- 国民生活センター – 賃貸住宅の原状回復トラブルにご注意! https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20260217_1.html
- エイブル – 賃貸退去時の原状回復費用の相場 https://homeowner.able.co.jp/article/restoration-cost/
- CHINTAI – 敷金はいくら戻ってくる?退去時の出費を最小限に抑える小ワザ https://www.chintai.net/news/18560/