この記事の結論
- 家族信託した不動産を売っても、税金は受益者(利益を受ける人)に課税されます。
- 所有期間の計算は信託設定前の委託者の取得日から引き継がれるため、長期・短期の判定に影響します。
- 自宅だった場合は3,000万円特別控除を使える可能性がありますが、受益者の状況で判定します。
「親が認知症になる前に家族信託を組んだけれど、いざ不動産を売るとなったら税金はどうなるの?」そんな疑問を持つ方は少なくありません。家族信託(民事信託)は財産管理の手段として広まっていますが、売却時の税金の仕組みは一般の不動産売却と少し異なります。この記事では、国税庁の通達や公式情報をもとに、家族信託した不動産を売るときの税金の基本ルールを、専門知識がなくても理解できるよう丁寧に解説します。「自分のケースはどうなるのか」を判断するための材料として、ぜひ最後まで読んでみてください。
家族信託とは何か、まず仕組みを確認しよう

家族信託の仕組みを理解することが、税金を正しく把握する第一歩です。言葉が難しく聞こえますが、基本的な考え方はシンプルです。
家族信託とは、財産を持つ人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を任せる契約のことです。たとえば「父親が自分の不動産を息子に管理させる」という形が典型例です。このとき、財産から生まれる利益を受け取る人を受益者といいます。多くの場合、委託者と受益者は同じ人(父親)が兼ねます。
重要なのは、登記上の名義は受託者(息子)に移っても、税務上は受益者(父親)のものとして扱われるという点です。これを「受益者等課税信託」といいます(国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/853/02.htm)。つまり、名義が変わっても、税金の世界では「実質的に誰が利益を得ているか」で判断されます。
信託を設定するとき(委託者から受託者へ名義を移すとき)と、信託が終わるとき(受託者から受益者へ名義を戻すとき)は、所得税法上の「資産の譲渡」には該当しないとされています(国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/853/02.htm)。これは、信託の設定・終了だけでは売却税が発生しないことを意味します。
ここまでのまとめ: 家族信託では名義が動いても税務上は受益者のものとして扱われ、信託の設定・終了だけでは売却税は発生しません。
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売却したときの税金は誰にかかるのか

信託した不動産を実際に売ったとき、税金は誰に課されるのかを確認しましょう。
信託財産の不動産を売却した場合、譲渡所得税は受益者に課税されます(国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/853/02.htm)。受益者とは、その不動産から生まれる利益を受け取る権利を持つ人のことです。多くの家族信託では父親や母親が受益者になっているため、売却の税金も親に課されます。息子が受託者として売却手続きを進めても、税金の申告・納税は受益者である親が行う必要があります。
譲渡所得(売却益)の計算方法は、通常の不動産売却と同じです。「売却価格 − 取得費 − 譲渡費用」で計算します。取得費とは、もともとその不動産を買ったときの費用のことです。譲渡費用には、仲介手数料・測量費・売買契約書の印紙代・立退料・建物の取壊し費用などが含まれます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm)。また、売買代金とは別に受け取る固定資産税の精算金も、売却価格に含めて計算します(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm)。
取得費が分からない場合や、実際の取得費が売却価格の5%より少ない場合は、売却価格の5%を取得費として使うことができます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm)。たとえば3,000万円で売れた場合、取得費が不明なら150万円を取得費として計算できます。ただしこの方法では課税される利益が大きくなりやすいため、できる限り実際の購入時の書類を探すことをおすすめします。
ここまでのまとめ: 売却税は受益者(多くは親)に課税され、計算方法は通常の不動産売却と同じです。
長期・短期の税率と、所有期間の数え方
税率は所有期間によって大きく変わります。家族信託では、この所有期間の数え方に特別なルールがあります。
不動産の売却益にかかる税率は、売却した年の1月1日時点での所有期間で決まります。所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」として所得税15%・住民税5%(合計20%)が適用されます。一方、5年以下の場合は「短期譲渡所得」として所得税30%・住民税9%(合計39%)と、税率がほぼ倍になります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm)。
家族信託の場合、所有期間は信託設定前の委託者(もともとの所有者)が取得した日から引き継がれます(国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/853/02.htm)。つまり、信託を設定した日からではなく、もともと不動産を買った日から計算します。たとえば、父親が20年前に購入した不動産を信託に入れて息子が管理し、今年売却した場合、所有期間は20年として長期譲渡所得の税率が適用されます。
これは売主にとって有利に働くことが多いルールです。信託を設定したからといって所有期間がリセットされるわけではないため、長年保有してきた不動産であれば、信託後の売却でも低い税率が適用されます。ただし、所有期間の起算日は物件ごとに異なりますので、購入時の契約書や登記簿で確認することが大切です。
ここまでのまとめ: 所有期間は信託設定前の取得日から引き継がれるため、長期保有の物件なら低い税率が適用されます。
3,000万円特別控除は使えるのか
自宅(マイホーム)を売るときの最大の節税策が「3,000万円特別控除」です。家族信託した自宅にも使える可能性があります。
3,000万円特別控除とは、マイホームを売ったときに、売却益から最高3,000万円を差し引ける制度です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm)。所有期間の長短は関係ありません。たとえば売却益が2,500万円であれば、特別控除の範囲内に収まり、税金がゼロになる可能性があります。
家族信託した不動産でも、信託財産の構成物である居住用の家屋や土地は、この特別控除の対象となる「居住用財産」に含まれます(国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/853/02.htm)。ただし、「その家屋が居住用かどうか」の判定は、受益者について行います(国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/853/02.htm)。つまり、受益者である父親が実際にそこに住んでいたかどうかが判断基準になります。
また、以前住んでいた家でも、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売れば、特別控除の対象になり得ます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm)。一方で、親子や夫婦など特別の関係がある人に売った場合は、この特別控除を使うことができません(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm)。この「特別の関係があるかどうか」も、受益者を基準に判定します(国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/853/02.htm)。
なお、特別控除を受けるには、確定申告が必要です。申告期限は売却した年の翌年2月16日から3月15日までです(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3102.htm)。申告書には譲渡所得の内訳書を添付し、住民票の住所と物件所在地が異なる場合などは戸籍の附票の写しなどの追加書類も必要になります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm)。
ここまでのまとめ: 3,000万円特別控除は受益者が居住していた家なら使える可能性がありますが、受益者の状況で判定され、確定申告が必要です。
注意が必要な特殊なケース
家族信託の売却税金には、一般的なルールとは異なる注意点もあります。
まず、信託設定時の贈与税に注意が必要です。信託を設定するとき、適正な対価を負担せずに受益権を取得した人がいる場合は、贈与税が課税されます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4427.htm)。たとえば、父親が委託者兼受益者で息子が受託者という一般的な形であれば贈与税は発生しませんが、信託の設計によっては課税が生じることがあります。信託契約を結ぶ前に専門家に確認することが重要です。
次に、委託者兼受益者が亡くなって信託が終了し、残余財産(信託が終わった後に残った財産)を帰属権利者が受け取って売却するケースでは、「被相続人居住用財産の3,000万円特別控除(空き家特例)」が使えないとされた事例があります(東京国税局 https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/joto-sanrin/221220/index.htm)。これは2022年12月20日付の文書回答事例で示されたものです。空き家特例の適用を想定している場合は、事前に税理士への相談が欠かせません。
また、土地の売却は消費税の課税対象にはなりません(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6225.htm)。一方、事業用や賃貸用の建物を売却した場合は、個人であっても消費税の課税対象となることがあります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3240.htm)。賃貸物件を信託に入れて売却する場合は、消費税の取り扱いについても確認が必要です。
ここまでのまとめ: 信託設定時の贈与税、空き家特例の適用可否、賃貸物件の消費税など、ケースによって異なる論点があるため専門家への確認が重要です。
まとめ
家族信託した不動産を売るときの税金は、基本的に受益者に課税されます。所有期間は信託設定前の取得日から引き継がれるため、長年保有してきた物件なら低い税率が適用されます。自宅だった場合は3,000万円特別控除を使える可能性がありますが、受益者が実際に住んでいたかどうかで判定されます。
一方で、信託が終了した後の売却や、賃貸物件の売却など、ケースによっては思わぬ税負担が生じることもあります。家族信託と売却が絡む税金の問題は、一般的な不動産売却より論点が多いため、税理士や司法書士など専門家への相談を強くおすすめします。確定申告の期限(売却翌年の2月16日〜3月15日)を逃さないよう、早めに準備を進めることも大切です。
ご自身の物件がいくらになるかは、実際の成約データで見るのが早道です。
参考文献・出典
- 国税庁「土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて 別紙」 — https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/853/02.htm
- 国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- 国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm
- 国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm
- 国税庁「No.3102 譲渡所得の申告期限」 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3102.htm
- 国税庁「No.4427 新たに信託の設定等を行った場合」 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4427.htm
- 国税庁「No.3240 個人が事業用建物等を譲渡した場合の消費税」 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3240.htm
- 国税庁「No.6225 地代、家賃や権利金、敷金など」 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6225.htm
- 東京国税局「信託契約における残余財産の帰属権利者として取得した土地等の譲渡に係る被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例の適用可否について」 — https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/joto-sanrin/221220/index.htm
一橋大学大学院MBA修了。大手デベロッパー法人部門、買取再販会社を経て現職。区分リノベ再販・都心事業用物件の買取再販を手がけ、業界7年の知見で記事を監修。
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