この記事の結論
- 農地売却の税金は「売却額-取得費-譲渡費用」で計算し、国税庁によると所有5年超は長期譲渡所得で所得税15%・住民税5%の合計20%、5年以下は短期譲渡所得で所得税30%・住民税9%の合計39%です。
- 農地保有の合理化目的で売る場合、800万円の特別控除が使える可能性があります。
- 農地売却には農地法の許可が必要で、許可を受ける前に売買代金を受け取ったり、農地の引き渡しを受けたりすることは農地法違反になる可能性があります。
農地を売ろうと思ったとき、「税金がいくらかかるのか」「何か手続きが必要なのか」と不安に感じる方は多いはずです。農地の売却は、一般的な土地の売却と比べて農地法という特別なルールが絡んでくるため、知らないまま進めると思わぬトラブルになることもあります。この記事では、農地売却にかかる税金の計算方法から、節税につながる特別控除の仕組み、相続した農地を売るときの注意点まで、初めての方にも分かりやすく解説します。ご自身のケースに当てはめながら読み進めてみてください。
農地売却の税金の基本的な仕組み

まず押さえておきたいのは、農地を売ったときの税金は「譲渡所得税」(じょうとしょとくぜい)という種類の税金だということです。譲渡所得税とは、土地や建物を売って利益が出たときにかかる税金のことです。
農地を売ったときの課税対象となる金額(課税譲渡所得金額)は、次の式で計算します(国税庁)。
課税譲渡所得金額=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
「収入金額」は売却で受け取った金額のことです。注意が必要なのは、買主から受け取る固定資産税の精算金も収入金額に含まれる点です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3214.htm)。「取得費」は農地を買ったときの購入代金や手数料、「譲渡費用」は売るためにかかった仲介手数料・測量費・売買契約書の印紙代などです(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm)。
また、農地の売却で生じた所得は、給与所得などと合算せず、別々に計算する「分離課税」という方式が採用されています(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm)。つまり、農地を売って利益が出ても、給与の税率が上がるわけではありません。
なお、土地の売却は消費税の課税対象ではなく、非課税取引として扱われます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6225.htm)。消費税を上乗せして請求する必要はありません。
ここまでのまとめ: 農地売却の税金は「売却額から取得費と諸費用を引いた利益」に対してかかり、給与とは別に計算します。
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所有期間で税率が大きく変わる

農地売却の税金で最も重要なのは、所有期間が5年を超えるかどうかで税率が大きく変わるという点です。
判定の基準となるのは、売却した年の1月1日時点での所有期間です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm)。たとえば2026年に売却する場合、2026年1月1日時点で5年を超えているかどうかで判断します。
所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」として扱われ、国税庁によると所得税15%・住民税5%の合計20%が基本税率です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm)。一方、5年以下の場合は「短期譲渡所得」となり、所得税30%・住民税9%の合計39%が基本税率になります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm)。つまり、同じ利益でも所有期間によって税負担がほぼ倍近く変わることになります。
さらに、国税庁によると復興特別所得税は所得税額の2.1%で、平成25年分から令和19年分まで適用されます。そのため、実際の所得税率は15%ではなく15.315%となります(国税庁 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shotoku/fukko_tokubetsu/index.htm)。
具体的な例で考えてみましょう。農地を2,000万円で売り、取得費と譲渡費用の合計が500万円だった場合、課税譲渡所得は1,500万円です。所有期間が5年超であれば、税額は約300万円(1,500万円×20%)になります。同じ条件で5年以下なら約585万円(1,500万円×39%)と、差額は285万円にもなります。
ここまでのまとめ: 所有5年超なら税率約20%、5年以下なら約39%と、所有期間で税負担が大きく変わります。
取得費が分からないときの対処法
先祖代々の農地や、昔に購入した農地では、いくらで買ったかの記録が残っていないことがよくあります。そのような場合でも、あきらめる必要はありません。
取得費が分からない場合は、売却金額の5%を取得費として使えるという制度があります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm)。また、実際の取得費が売却金額の5%を下回る場合も、この5%を使うことができます。
たとえば2,000万円で売れた農地の取得費が不明な場合、2,000万円×5%=100万円を取得費として計算できます。つまり課税対象は1,900万円になります。取得費が実際には非常に低かったとしても、この概算取得費を使うことで税負担を一定程度抑えることができます。
ただし、購入当時の売買契約書や通帳の記録、登記費用の領収書などが残っていれば、実際の取得費を使った方が有利になる場合もあります。古い書類でも捨てずに探してみることをおすすめします。
ここまでのまとめ: 取得費の記録がなくても、売却額の5%を取得費として申告できます。
農地売却で使える800万円の特別控除
農地の売却には、一定の条件を満たす場合に譲渡所得から最大800万円を差し引ける特別控除があります。これは「農地保有の合理化等のために農地等を譲渡した場合」に適用される制度です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm)。
ただし、この800万円控除はすべての農地売却に自動的に適用されるわけではありません。一定の要件を満たす場合に限られており、市町村長・都道府県知事・農業委員会・土地改良事業の施行者などが発行する証明書類が必要になります(国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/710826/sanrin/sanjyou/hyou_5.pdf)。
先ほどの例で考えると、課税譲渡所得が1,500万円の場合に800万円の特別控除が使えれば、課税対象は700万円に減ります。長期譲渡所得の税率20%で計算すると、税額は約140万円となり、控除なしの約300万円と比べて160万円の節税になります。
なお、特別控除額の合計は、その年の譲渡所得全体を通じて5,000万円が上限です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm)。自分が対象になるかどうかは、農業委員会や税理士に確認することをおすすめします。
ここまでのまとめ: 農地保有の合理化目的の売却なら800万円控除の可能性がありますが、証明書類の取得が必要です。
相続した農地を売るときの特別な注意点
親や祖父母から相続した農地を売る場合は、いくつか追加で知っておくべきポイントがあります。
まず、相続した農地の取得費は、亡くなった方(被相続人)が購入したときの金額をそのまま引き継ぎます。また、所有期間も被相続人が取得した時点から計算します(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm)。つまり、被相続人が30年前に購入した農地を相続してすぐ売っても、所有期間は30年以上として長期譲渡所得の税率が適用されます。
次に、相続税を支払った場合には「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」が使える可能性があります。これは、相続税額のうち一定金額を取得費に加算できる制度です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm)。ただし、適用には一定期間内に売却するなどの条件があります。詳細は税理士や税務署に確認してください。
また、農地の相続税について「農地等納税猶予の特例」(のうちとうのうぜいゆうよのとくれい)を受けている場合は特に注意が必要です。この特例を受けている農地を売却・転用すると、猶予されていた相続税額の全部または一部を利子税とともに納付しなければならなくなるリスクがあります(国税庁 https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/souzoku/pdf/all.pdf)。売却を検討する前に、必ず専門家に相談することをおすすめします。
農地の売却には農地法の手続きも必要です。農地を農業目的で売る場合は農業委員会の許可(農地法第3条)、農地以外の目的(住宅地など)に転用して売る場合は都道府県知事等の許可(農地法第5条)が必要です(農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/wakariyasu.html)。許可を受ける前に売買代金を受け取ったり、農地の引き渡しを受けたりすることは農地法違反になる可能性があるため、手続きの順序を必ず守ってください(農林水産省 https://map.maff.go.jp/QA)。
ここまでのまとめ: 相続農地は取得費・所有期間を被相続人から引き継ぎ、農地法の許可手続きも忘れずに行いましょう。
まとめ
農地売却の税金は、「売却額から取得費と諸費用を引いた利益」に対してかかります。所有期間が5年を超えるかどうかで税率が大きく変わり、5年超なら約20%、5年以下なら約39%が基本です。取得費が分からない場合は売却額の5%を使える制度があり、農地保有の合理化目的の売却なら800万円の特別控除が使える可能性もあります。相続した農地を売る場合は、取得費の引き継ぎや農地法の許可手続きなど、追加の確認事項があります。
確定申告は、売却した年の翌年2月16日から3月15日までに行う必要があります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3102.htm)。申告書には分離課税用の第三表と「譲渡所得の内訳書(土地・建物用)」も必要です。農地の売却は手続きが複雑なため、農業委員会・税務署・税理士への早めの相談が安心への近道です。
ご自身の農地がいくらで売れるか、税金がいくらになるかは、実際の成約データで確かめるのが最も確実です。
参考文献・出典
- 国税庁 No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき) — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm
- 国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税) — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
- 国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁 No.3211 短期譲渡所得の税額の計算 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm
- 国税庁 No.3258 取得費が分からないとき — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm
- 国税庁 No.3214 土地建物を売ったときの収入金額に含める金額 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3214.htm
- 国税庁 No.3102 譲渡所得の申告期限 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3102.htm
- 国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm
- 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- 国税庁 復興特別所得税について — https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shotoku/fukko_tokubetsu/index.htm
- 農林水産省 農地をめぐる事情について — https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/wakariyasu.html
- 農林水産省 eMAFF農地ナビ よくある質問 — https://map.maff.go.jp/QA
一橋大学大学院MBA修了。大手デベロッパー法人部門、買取再販会社を経て現職。区分リノベ再販・都心事業用物件の買取再販を手がけ、業界7年の知見で記事を監修。
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